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東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)179号 判決

原告

森田泰元

右訴訟代理人

山田靖彦

被告

特許庁長官

片山石郎

右指定代理人

房村精一

外三名

主文

被告が、原告の昭和四八年一〇月一日付登録第三六〇一一九号商標権存続期間更新登録願(昭和四八年商標登録願第一五八九七四号)について、昭和四八年一二月一七日付でした不受理処分を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一、請求の趣旨

主文と同趣旨

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一、請求の原因

1  原告は、被告に対し、昭和四八年一〇月一日、商標法第二〇条第二・第三項に基づき左記登録商標につき商標権の存続期間の更新登録の出願(昭和四八年商標登録願第一五八九七四号、以下「本件出願」という。)をした(以下右登録商標に係る商標権を「本件商標権」という。)。

登録番号 第三六〇一一九号

原出願日 昭和一七年一二月一日

原登録日 昭和一八年一一月一三日

第一回更新登録出願日 昭和三八年五月六日

同登録日 昭和三八年七月二三日

指定商品 旧第一類 生薬

商標権者 原告

2  被告は、本件出願につき、昭和四八年一二月一七日付で、商標権の存続期間の更新登録の出願をすべき期間内の出願でないとの理由で不受理処分(以下「本件処分」という。)をした。

3  そこで、原告は昭和四九年二月一二日、被告に対し、本件処分につき行政不服審査法に基づく異議申立てをしたが、被告は昭和四九年一一月七日付で、本件出願は商標法第二〇条第三項所定の要件を具備していないので、同条第二項の期間内の出願でないことを理由に行つた本件処分は正当であり、異議申立ては理由がないとして、これを棄却する旨の決定をし、その謄本は同月一二日、原告代理人に送達された。〈以下略〉

理由

被告が本件出願につき、本件商標権の存続期間の更新登録の出願をすべき期間内の出願でないとの理由で本件処分をしたこと、本件商標権の存続期間の更新登録の出願は、昭和四八年五月一四日から同年八月一三日までの間にされるべきであつたところ、原告は右期間内に出願せず、期間経過後である同年一〇月一日にこれをしたことについては当事者間に争いがない。

〈証拠〉を総合すると、原告は、昭和四八年七月一日頃、急性腎炎のため見合の席で急に気分が悪くなり、その場から直ちに川端病院に入院したが、入院後約一週間頃から高熱が出ると共に重篤状態となり、その状態が一か月くらい続いたあと、一週間ほどはやや回復したが、その後再び重篤状態となり、その状態が同年九月二五日まで続き、その間医師から安静を命ぜられ、家族以外の者との面会を禁止されており、重篤状態時には判断力、思考力が極度に減衰していたことが認められ、右事実によると、原告は、昭和四八年七月一日頃から同年九月二五日までは自ら本件商標権の存続期間の更新登録の出願をし、あるいは代理人をしてこれをさせることを念頭におくことを期待できない状況にあつたものと推認することができる。

ところで、商標法第二〇条第三項の規定する「責に帰することができない理由」のある場合とは、商標権の存続期間の更新登録の出願をする者が、その出願手続をする上に通常用い得ると期待される注意を尽しても、なお出願期間の徒過を避けることができないと認められる事由のある場合をいうものと解すべきであり、右は必ずしも天災その他避けることのできない事変といつた、いわゆる客観的事由に基づく不能の場合に限られず、出願者本人に生じた、いわゆる主観的事由に基づく不能の場合もまたこれに含まれるものである。従つて右に認定したように突然の重病により出願が不能となつた本件の場合も、右不能になつた理由は、原告の「責に帰することができない理由」に該当するというべきである。

そして、本件出願が昭和四八年一〇月一日にされたものであることは前認定のとおりであり、右の日が前認定の原告の「責に帰することができない理由」のなくなつた日である昭和四八年九月二六日から一四日以内で、本来出願をすべき期間(同年五月一四日から同年八月一三日)の経過後二月以内であることは明らかである。

従つて、商標法第二〇条第三項の適用を排し、同条第二項に定める商標権の存続期間更新登録の出願をすべき期間内の出願でないとの理由でした被告の本件処分は違法であり取り消されるべきものである。

よつて原告の被告に対する本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(高林克巳 清永利亮 岡久幸治)

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